少しだけ苦言を呈させてください(変形性股関節症と診断された鼠径部痛)

タイトルの方が通院され、初回ではかなりの破行を示して来院されていたのが、
まだ完全ではないですがかなり歩行の改善がみられています。
この方は既に1年半近く跛行(何らかの原因で正常な歩行ができない状態)が続いている状態で来院されました。
整形外科や他の治療院にも通院されていましたが一向に症状は改善されず、病院では手術を勧められた為
出来れば手術は避けたいとの想いで当院へと辿り着かれたそうです。
まず最初にその方の歩行を見て感じたのは患側の下肢にほとんど荷重が出来ていないことから重症であるなという点でした。
股関節の機能障害は屈曲と伸展方向共にに著明で、特に自動他動に関わらず少しでも屈曲方向に動くと
鼠径部に強い疼痛が生じていました。
この屈曲時の疼痛が主訴となり、生活動作に支障をきたしている状況となっていました。
股関節の変形自体はレントゲン画像診断で確定しているので間違いはないのですが、
「今現在起きている機能障害がはたして関節の変形が原因なのか」という点の検証が
これまで掛かられてきた医療機関では一切されてこなかったことがお話から見受けられたので、
まずはその検証から始めることとなりました。
結論からいうと原因は筋肉付着部の腱の滑走にありました。
簡単な検査なのですが、原因と思われる可能性の高い組織に誘導を加えて疼痛誘発動作の再現を行い、
疼痛が消失・もしくは著しく減少するのであればその組織こそが原因であることが確定します。
整形外科での診断にありがちなことなのですが、画像で目に見えている変形などに注目しすぎてしまい、
実際の痛みの原因が特定されないまま鎮痛剤の処方や理学療法が漫然と繰り返されたり、
最終的に痛みの原因ではない組織の手術などが行われるといった事態が起きてしまいます。
要は「関節の変形があるから痛みは取れないよ」という先入観から
問題の原因が別にあるという可能性が顧みられていなかったということです。
正直なところ、このような「問題の本質を放置された患者さん」ばかりで
一体医療とは何のためにあるのだろうなと考えさせられることが多いのです。
治療法として様々な考え方や手段があるのは分かるのですが、
自分が何をできるのかが先に立ってしまい、
「何を治すべきなのか」という視点が、医療・代替医療を問わず抜け落ちている医療者が多すぎると思うのです。
当院以外で施術を受けたカイロプラクティック院では患部に全く触れられることは無く(!)
「背骨と骨盤が矯正されれば治る」と言われたそうです。
そして高い回数券を購入して通院したけれど、股関節の症状は全く改善しなかったというお話でした。
別に高い回数券を売るのを批判したいわけではないのです。
ですがそれなりの金額を支払った患者さんに対して、
自身が今までやってきた方法で結果が出ないのであれば
そこから更に知識を深堀していく行動を起こさない、その姿勢に疑問を感じるのです。
私自身もこの患者さんの症状を一回で日常生活で問題ないレベルにまで改善させられたわけではありません。
施術中はもちろん注意深く患部と全身のバランスを観察していましたし、
施術中以外の時間でも股関節周囲の組織で私が想定していない組織の見落としが無いかを何度も調べました。
そして何回目かの施術時にようやく機能障害を起こしている原因の組織を特定することができ、
痛みを改善させられたのです。
別にそれを誇りたいわけでもないですし、私よりももっと知識もあって熟練の施術者なら
難なく一発で改善させられたのかもしれません。
誰だって完璧では無いですし、私も知らない知識はたくさんあります。
私もこの業界で働きだして17年になりますがもっともっと知識も技術も深めていきたい欲求が強いです。
これは今の仕事を始めて以来の、建前ではなく私の根源的な欲求です。
私が言いたいのは、治せない症状にぶち当たった時に、
その場所に留まって同じことを繰り返すのか、それとも新しい知識技術を取り入れ変化していく選択をするのか
ということです。
「こういうもんだ」と知った風にあきらめて自他を納得させるのではなく、
「別のやり方がないか?」と常にあきらめ悪く足掻くスタイルです。
これは施術の歴の長短や知識経験の多寡に関わらずどの医療者にも当てはまる本質的な姿勢の問題だと思います。
私はなるべくならずっと後者の手技療法家でいたいと思っていますし、
それが患者さんの幸福と私自身の幸福につながると確信しています。