なぜ私は「腹を伸ばせ」と言うのか
腰痛、膝痛、肩こり。
慢性的な不調を抱える人の姿勢を観察していると、ある共通点が見えてきます。
それは筋力不足でも柔軟性不足でもありません。
もっと根本的な問題です。
「腹が伸びなくなっている」
ということです。
私は日々の施術の中で、
「腹を伸ばしてください」
という指導をよく行います。
それは見た目を良くするためではありません。
人間が本来持っている立つ・歩くという機能を取り戻すためです。
人間は本来、股関節で立つ
本来の立位では股関節が軽く伸展し、骨盤の真下に脚があります。
この状態では筋肉も関節も無理なく荷重を支えられます。
ところが腹部が縮み始めると事情が変わります。
上腹部やみぞおち周辺が硬くなり、身体の前面が短縮すると股関節が十分に伸びなくなります。
すると身体は何とかして倒れないように別の方法を選びます。
そしてここで二つのパターンに分かれます。
多くの人は「膝屈曲型」になる
実際に最も多いのはこちらです。
股関節が伸びなくなると身体は重心を前に運べなくなります。
すると膝を少し曲げたまま立つようになります。
いわゆる
受け腰
と呼ばれる姿勢です。
特徴としては
- 膝が軽く曲がっている
- お尻が後ろへ逃げる
- 腰が丸い
- 歩幅が小さい
- 長時間歩くと疲れやすい
といったものがあります。
高齢者に非常に多いタイプです。
本来なら股関節伸展で支える場面を、
- ハムストリング
- 大腿四頭筋
- 腰背部筋群
が代わりに支え続けるため、腰や膝に負担が集中します。
一部の人は「反張膝型」になる
もう一つのパターンがあります。
それが反張膝型です。
股関節が伸びないにもかかわらず、膝だけを後ろへ反らせて立つタイプです。
特徴は
- 膝が過伸展する
- お尻が平ら
- 腰椎前弯が少ない
- 足関節背屈制限が強い
- 太もも前側が張りやすい
などです。
膝を反らせることで重心を維持しているため、一見すると姿勢が良く見えることもあります。
しかし実際には股関節機能を失った代償です。
膝関節や靭帯への依存度が高く、腰痛や膝痛を繰り返しやすい特徴があります。
違う姿勢に見えて原因は同じ
興味深いことに、
膝屈曲型と反張膝型は見た目が全く違います。
しかし共通点があります。
それは
股関節伸展を失っていること
です。
さらに言えば、
腹部前面の短縮によって身体の前側が伸びなくなっていること
です。
つまり結果は違っても出発点は同じ可能性があります。
腹だけ出ている人に多い理由
腹だけが前に出ている人を観察すると、
- 股関節が伸びない
- 歩幅が小さい
- 腰痛持ち
- 膝痛持ち
という傾向が見られます。
多くの場合、
脂肪が問題なのではなく、
腹部が前方へ張り出したまま硬くなっていることが問題です。
身体前面が短縮すると、立位で必要な伸展方向の自由度が失われます。
その結果として反張膝型や膝屈曲型が生まれてきます。
歳を取るとは腹が縮むことである
高齢者の姿勢を観察すると、
反張膝型であれ膝屈曲型であれ、
共通して股関節伸展が減少しています。
歩幅が狭くなり、
背中が丸くなり、
腹が伸びなくなる。
これは単なる見た目の問題ではありません。
移動能力そのものの低下です。
私は臨床の中で、
老化とは股関節伸展を失う過程でもある
と感じています。
腹を伸ばすことから始める
慢性痛の患者さんは、
筋トレをする前に、
ストレッチをする前に、
まず腹が伸びるかを確認する必要があります。
腹が伸びれば
- 股関節が伸びる
- 骨盤が起きる
- 歩幅が広がる
- 荷重分散が改善する
という変化が起こります。
結果として腰痛や膝痛が改善することも少なくありません。
まとめ
反張膝型と膝屈曲型。
見た目は正反対です。
しかしどちらも、
股関節伸展を失った身体が作り出した適応反応かもしれません。
そしてその背景には、
腹部前面の短縮という共通した問題が隠れています。
私は患者さんの姿勢を見る時、
膝が反っているか曲がっているかよりも、
まず
「腹が伸びているか」
を観察します。
なぜなら人間は、
腹が伸びなくなった瞬間から、
少しずつ老化を始めるからです。





