自然免疫と鍼灸 2
前回の投稿では自然免疫におけるトル様受容体、ヒートショックプロテイン、灸施術の関係について記述しました。
鍼灸治療における免疫強化には、まずDAMPs(Damage-Associated Molecular Patterns、損傷関連分子パターン)の働きが必要となります。DAMPsとは組織損傷や細胞ストレスによって放出される内因性の分子群で、免疫応答を引き起こす重要な役割を果たします。
通常は細胞の中に存在し細胞が健康な状態では外部に露出しませんが、細胞の壊死や損傷、炎症、ストレス状態で細胞外へ放出されます。
鍼灸治療はDAMPsの適度な放出を誘導し、免疫系のバランスを調整するとされています。
- 局所的な微小炎症の誘発: 鍼刺激により、DAMPsが一時的に放出され、免疫細胞が活性化。
- 免疫応答の調整: DAMPsを介して自然免疫系を適度に活性化し、慢性炎症を軽減。
例えば、足三里への刺激が、DAMPsと関連する炎症性サイトカインの適切な調整に寄与することが研究で示唆されています。
役割としては以下の内容が挙げられます。
- 免疫系の警告システム
病原体がいない場合でも、組織損傷が発生するとDAMPsが放出され、免疫細胞を動員して修復プロセスを開始します。鍼灸治療によるアプローチはこの働きを利用しています。 - 炎症誘発
DAMPsは自然免疫系を刺激し、炎症性サイトカイン(IL-1β、TNF-αなど)の分泌を引き起こします。
DAMPsの種類としては
① 核由来のDAMPs
- HMGB1(High Mobility Group Box 1 protein)
核内に存在し、損傷時に細胞外へ放出され、免疫細胞に強い炎症応答を誘発。 - DNA/RNA
損傷細胞から放出された核酸が、自然免疫受容体(TLRsやNLRs)を介して炎症を誘導。
② 細胞質由来のDAMPs
- ATP(アデノシン三リン酸)
損傷細胞から放出され、免疫細胞(マクロファージや樹状細胞など)を活性化。 - ウリック酸
DNA分解の産物で、炎症性サイトカインの産生を刺激。
③ 細胞外マトリックス由来のDAMPs
- ヒアルロン酸断片
組織損傷後に分解され、免疫細胞を活性化。 - フィブリノーゲン
血液凝固に関与するタンパク質で、炎症を引き起こす。
といったものが挙げられます。
DAMPsはパターン認識受容体(PRRs)によって認識されます。主な受容体には以下があります。
① TLRs(トル様受容体)
- TLR4: HMGB1やヒアルロン酸断片を認識。
- TLR9: 放出されたDNAを認識。
② NLRs(ノッド様受容体)
- 細胞内でDAMPsを検知し、インフラマソームを形成して炎症性サイトカイン(IL-1βやIL-18)の分泌を促進。
③ RAGE(Receptor for Advanced Glycation End Products)
- HMGB1やフィブリノーゲンを認識し、炎症性シグナルを伝達。
トル様受容体については前回記述しましたがそれ以外にもDAMPsの受容体は存在し、鍼灸治療による介入もこれらの受容体の賦活化に繋がります。
そして驚くべきことにこれらの受容体は食細胞のような免疫細胞だけではなく、ほぼ全身の細胞に分布していることが分かっています。
まとめると、DAMPsは細胞損傷時に免疫系を活性化する重要な内因性分子であり、自然免疫の調整に関与します。鍼灸は、DAMPsを適切に誘導し、免疫系の過剰反応を防ぎつつ賦活化する可能性があり、特に炎症性疾患や免疫機能低下の治療において有用です。